過去と未来2 「珍しいな、河合から言ってくるなんて」 クスクスと低い笑い声が耳朶を擽る。顔を上げると目尻を下げた中野君の顔が思った以上に近くにあって驚く。それと同時に更に赤くなるほっぺを、彼がつんつんと指先でつついてきた。 ああ、彼はちゃんとここにいる。 恋人繋ぎした手からしっかりとした温かさが、冷たい私の手に伝わる。 「最近、どう?」 それは自然で、それでいて唐突な問いかけだった。私にはこの時はまだ、確信が持てないでいた。 「今日、松本先生が男子にカツラ盗られて怒ってたよ。おかげで皆爆笑してた」 「松本先生?」 ああ、そうか。中野君は知らないんだっけ。 「社会担当だった青山先生は分かる?」 「うん」 「一ヶ月前に妊娠したから辞めたの。代わりに来たのが松本先生」 「へぇ、そうなんだ。めでたいな!」 目を大きくした後嬉しそうに微笑む中野君に、私は少しだけ寂しさを覚えた。彼は気付いているんだろうか。私にはまだ分からない。 ←|戻|→ . |