過去と未来1 「中野君」 私はいつも、学校の帰り道は中野君に送ってもらっていた。今は半年ぶりに彼に送ってもらっている途中。 「どうした?」 彼を呼んだ私の声は少し震えていた。肩を並べて歩いていたけど、いつしか私は彼の背中を見れるくらい後ろに下がってしまっていた。 中野君は足を止めて振り向き、変わらない優しい笑みを浮かべて首を傾げる。勇気を振り絞って声を出すけど、思っていたよりも小さい声になってしまう。 「あのね」 「ん?」 予想通り、彼の耳にまで届かなかったのでもう一度声を出す。中野君は近寄ってきて目前に立った。 彼は、平均よりも低い身長をいつも気にしていた。私は女子の中では平均より少し上なので、数cmしか彼と変わらない。落ち込む中野君に「手を繋ぎやすいから良いじゃない」とよく言っていた。 ブーツを履けないのはちょっぴり残念だったけど、つま先立ちをすればキスが出来るこの身長差がとても、とても好きだった。変わらない位置にある中野君の顔を見上げて再び口を開く。 「手、繋ぎたい…です」 語尾に行くにつれて声は小さくなってしまった上に、思わず敬語になってしまった。そういえば私から言い出した事は無かったかもしれない。 何だか恥ずかしくなってきて顔を俯かせた私の視界に彼の手が入り込んできた。中野君の手が私の手に合わさる。確かな温もりが、そこにはあった。 ←|戻|→ . |