QUESTION1 | ナノ

QUESTION1












 私はつい最近まで、しがない村人A、もとい下町で密かに人気を呼んでいるパン屋だったはず。
 そんな平凡な私に跪いている物好きがいる。見上げてくる男は、人間味の無い美しすぎる顔立ちをしている。
 雪のような真っ白な肌は女の私から見ても羨ましいくらいに染み一つ無い。鼻筋の通った高い鼻に、冷徹さを感じる切れ長の目。誰から見ても美青年だと頷ける男だけど、私には覚えが全くない。
 目を惹くのは宝石のように美しく輝いているパープルの瞳。高貴の証である紫を生まれ持っているなど、何の特筆も無い平凡な私にとって皮肉でしかない。
 目前で膝を折るこの男と同じ黒い髪だけは、艶があり自慢出来る唯一だったけれど、男のどこまでも深い漆黒の髪を前にしては、それすらもはばかられる。


「リーフ・カイリー」


 相手を間違えていませんか、という記念すべき一声は、男が発した言葉により無音と化した。
 まさしく(残念ながら)私はリーフ・カイリー。どうして目が眩む程の美形が私の名前を知っているのか。
 混乱を極めながらも声に聞き覚えがあることに気付いた。はて、どこで聞いたのかしら?



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