summer day | ナノ

summer day












―――初夏のある日の夜。
 少し肌寒くさえ感じる外気に晒されながら、僕らは二人、肩を並べて歩く。コンビニへ行き夕ご飯を買うという目標を達成し、あとは真っ直ぐ我らの巣へと帰るだけだ。
 虫の音を耳に残しながら、ふと出会った日のことを思い出した。


(あの時も、こんな夜だったなぁ)


 小さな小さな、空から見下ろせば豆粒のような恋の始まり。どれほど小さくたって、僕には―――僕らにとっては大切な宝物だ。


「なあ」


 街灯の少ない中で、彼の声だけが存在感を放つ。少々緩んだ頬もそのままに、続く道の先を見つめて答えた。


「何?」
「暗いし…繋ぐか?」


 何を、だなんて馬鹿なことは言わない。


(ああもう、好きだな)


 ますます緩む顔の引き締め方を、生憎僕は知らない。僕よりもほんの少しだけ骨張った手に、自分の手を重ねて指を絡める。伝わる温もりが、ほのかに甘い。
 僕らの触れることのない肩の間に落ちる沈黙さえも甘く暖かい。寂しさを誘うはずのぽっかり浮かんだ月も、優しく見守ってくれている気さえする。
 都合よく解釈する自分にクスリと口元だけで笑った。すると隣からも低く喉を鳴らす音が聞こえて、同じだなぁとまた幸せな思考回路を巡らせる。
 時を止めてほしいと願いながらも、不可能であることを知っている僕は、ただただこの煌めく一瞬を大切に胸の奥へと閉まっておくのだ。


end



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