覚醒2 | ナノ

覚醒2












「先生、好きです!」


 お馴染みの台詞を朝っぱから繰り返す能勢。面倒臭ぇな。そう思いながら開いた口は断りの言葉ではなくふと思いついた疑問だった。


「お前さ、毎日フられて平気な訳?」


 俺は、能勢ならいつものへらりとした笑みを浮かべるものだと思い込んでいた。しかしすぐにそれが誤った予想だったことに気付かされた。
 スッと顔から表情が消え、明るい笑顔の代わりに浮かんだのは深い悲しみだった。軽く開いた口は音を作る前に閉じられた。ぎゅっとへの字に結んだ唇。そのままくるりと方向転換して飛び出していった。


「………」


 俺はただ呆然とするしかなかった。酷いことを言ったのは自覚していた。俺のことを諦めるのなら万々歳。そう思っていたはずなのに。どうしてか、ひどく胸が疼いた気がした。
 その日から、能勢はパッタリと職員室に来なくなった。以前に戻っただけなのに、何故こうも空虚感に苛まれるのだろうか。


「最近来ませんね」
「…そうですね」


 ポツリと呟いた隣の席の教師に当たり障りなく答える。能勢のことであるのは重々承知だ。あいつが来なくなってから朝の時間が長いものに感じられた。
 心のどこかであいつが来ることを期待しているのだろうか。そこまで考えて有り得ない、と俺は首を振った。これ以上は気づいてはいけない。



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