覚醒1 毎日毎日、そいつは飽きもせず向かってくる。 どれだけ俺が冷たい拒絶を浴びせても、ただへらりとするだけだったから勘違いしていた。 誰だって傷付くことを忘れてしまっていた。 「―――先生、好きです!」 朝、職員室で授業の準備をしていると聞き慣れた声が室内に響いた。「またか」と嘆息しそうになるのを押し留めて生徒を見やる。 「俺は好きじゃねぇ」 「諦めませんっ」 面倒だというのを全面に出して答えるが、まるで能勢には効果がない。三ヶ月間一度も途切れることのないやり取り。毎度のごとくあっさりと切り捨てる俺に、能勢は相変わらず笑って元気よく宣言した。 「おー能勢。今日もフられたのか」 「はい!でも負けませんっ」 最初こそ驚いていた教師軍も、ここ最近では能勢の味方になる始末。微笑ましそうに見守る先生方。俺としては良い迷惑だ。 「舟橋先生、応えてあげても良いじゃありませんか」 「…あー、そうですね」 年齢の近い一人の教師が言ってきたが適当にあしらう。 確かにこの閉鎖された金持ち学園はホモやバイがわんさかいるし、かくいう俺も両刀だ。しかしだからといって生徒とそういうことはしないし、能勢のような純粋な好意なら尚更だ。 「では!」 チャイムの音と共に能勢は去っていった。クラスを受け持つ先生方が席を立つが、教科だけの担当である俺はのんびりとインスタントコーヒーを啜るのだった。 ←|戻|→ . |