日課3 | ナノ

日課3












 その日から俺はパッタリと職員室に行かなくなった。それでも少ないが先生が担当する教科は受けなきゃいけなくて、ずっと俺は目を合わせないように教科書を睨んでいた。以前の俺なら喜んで顔を上げて「こっちを見てくれないかな」だなんて念じていたのに。けど、いつかはこうなる事を予想していた。
 だからといって平気では無いけれど。むしろ想いは募るばかりだ。当然板書など出来るはずもなく、真っ白なノートに意味もなくグルグルを書く。
 無意識に平仮名二文字画数六画の文字を書いていて、俺は自分で凹みながら消しゴムでそれを入念に消した。何の形跡も無くなった先程まであった文字の跡を指でなぞる。


(同じ様に俺の気持ちも消しゴムで消せたら良いのに)


 そんな風に出来もしない事を考えてみる。未練がまし過ぎるだろ、と苦笑した。チラリと目線を上げると、男らしい大きな手が白い線を書いているところだった。


(先生、何でかな、胸が苦しいんだ)


 届きもしない小さな声はシャーペンを走らせる音に掻き消された。俺はどうしようもなくて、ノートに段々ふやけた小さな丸い形が増えていくのをじっと見つめていた。


(俺が居なくても貴方は何も変わらないのですね)


 それはなんと残酷なのでしょう。


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「平仮名二文字画数六画」=「すき」
「ふやけた小さな丸い形」=「涙」



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