無き声2 | ナノ

無き声












 幾ら成長が遅いといえどもこの幼さは可笑しい。男は考えを張り巡らせながら、ふと疑問が浮かんだ。


「…喋れない、のか?」


 今まで一度も少年の声を聞いていない。人見知りで終わらせることも出来るがしかし、それなら口で年齢くらい言い直す筈だ。男は自分の見当違いなら良いがと少年を見る。
 少年は暫く男を見つめ、数分後ゆっくりと首を縦に振った。そして今まで表情を見せなかった少年は小さく笑みを浮かべた。それは子供らしい純真無垢な笑顔などではなく、自身を嘲笑う類のそれだった。
 真正面から少年の笑みを見た男は再び息を呑んだ。やはりあの諦念の目は見間違いなどではなかったのかと。
 少年は笑う。自分が愚かであるかのように、"こんな自分は要らないだろう"と男を拒絶するかのように。


「…そうか」


 しかし少年の考えは否定された。男がそれはそれは美しく微笑んだからだ。意図は分からないけれど、少年にとって男の笑みは衝撃的だった。
 何時からか言葉を吐き出す事を止めた自分に周りは良い顔をする筈もなかった。上辺だけは可哀想にと浮かべる表情の裏の顔を少年は敏感に感じとっていた。鬱陶しがられても自分を守るためには口を閉ざすしか方法を知らなかったのだ。



||

.