無き声 初対面の男に連れられてやって来たのは高級ホテルだった。その品位の高さに呆然とする少年を男は部屋に押し込める。その強引さに決して不快感は感じられず、少年は警戒心を持たない自分に小さく首を傾げた。 「お前、何歳だ?」 男は気になっていた事を尋ねた。少年はゆるゆると両手を持ち上げて自分の年齢を示す。男は示されたものを読み上げる。 「6歳か」 少年の左手が5を示し、右手が1を示していた。下手をすれば誘拐にも思われるなと男は苦く笑った。しかし少年は横に首を振る。 「…違うのか?」 男の言葉に少年は頷いた。ならばどう読めば良いものかと考え、そしてまさかと思いながらも言い直してみる。 「………15、か?」 右利きならば普通、右手の方を自然と数を数えるのに先に使う。だけれども少年は左手を5と示した。 可能性は、二つ。少年が左利きであるか、男から見て正しく読み取れるよう1を右に意図して示したか。男は外見の幼さから見て有り得ないと思いながらも、後者の可能性も少ないがあると尋ねれば。 「………そうか」 躊躇わず頷いた少年に顔を引きつらせた。容姿は6歳でも通る(少し発育が良いと思えば)のに、15歳だと言い張る少年に違和感を覚える。 ←|戻|→ . |