泣き声 | ナノ

泣き声












 それは冷たい雨が降る日だった。少年が公園のブランコに座り、雨に打たれて濡れながら、雨雲が広がった空を見上げていた。見た目は随分と幼く、小学低学年のように見える。
 しかし灰色を映す瞳は外見に似合わず酷く老熟していた。なんと表現すればいいのだろうか。世の中に溢れ返る矛盾と理不尽さと、そして暗い闇を全て悟り、その全てを視界から遮断し諦めたような、いわば諦念、といえばいいのか。そういった色を宿していた。そんな少年を一人の男が目敏く見つけた。
 男は黒の高級車に乗っていて、ふと目を向けた公園に小さな影を見たのだ。今は平日の真っ昼間で少年が此処に居るには些か違和感を覚えた男。酷く興味をそそられ、本能に従い車を公園の横に停めた。車のドアが閉まる音と男が地を踏みしめた音は、雨音が消し去った。
 案の定少年は男の方を見る訳でもなく、ひたすらに空を見上げるばかり。男は少年の目の前までゆったりとした動作で歩いてゆく。視界の端に漸く映ったのか、先程まで灰色の空を捉えていた瞳に男が映り込んだ。男は瞳をじっと見つめた。
 奥に潜む老練した炎に気づき、息を呑む。少年はただ男を見るばかりだ。



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