雨のち雨4 | ナノ

雨のち雨4












「好きだ」


 とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。あ、これは全部幻か。なんという都合の良い夢だろう。最期だけは救われるなんて、神様はなんて酷い事をするんだ。


「不律が好きだ」
「…俺も好きだよ、郁人」


 抱きしめられた熱も、口付けも、幻だと知っていても全てが愛しい。


「死ぬな」


 痛切な声に目を閉じる。郁人は幸せになるべき人間だと思う。俺のように堕ちてはいけない。…だけど、幻だったら少しくらい甘えても良いだろうか。


「…俺、死にたくない」
「不律…」
「郁人と一緒にいたい。汚れたかった訳じゃないよ」


 除隊を申し出た時、裏切るのかと言って数人の隊員に犯された。これが俺のやってきた事だと思うと心が痛かった。連日強姦されて、とうとう俺は申し出を取り下げた。無理だった、これ以上は俺自身が壊れると思ったから。
 どうして俺は此処まで堕ちてしまったのだろう。身も心も汚れて、退学を言い渡された日には安堵の息さえ吐いた。やっと此処から出られるのだと。
 世の中そんなに甘くないって、次の瞬間には地獄に叩き落とされたけど。こんな俺に郁人を好きになっていい権利はない。分かっているんだ。


「なぁ、俺は何で好きでもない奴に童貞を捨てて、強姦されたんだ?もう分かんねぇよ…」


 自分が分からない。郁人に縋り付いて泣いた。もう出口は見えない。引き返そうにも引き返せない。俺は何の為に生きてきたのだろう。どこで間違えたのだろう。


(この世に生を受けた事が、間違いだったのかな)


 薬に蝕まれた体は世界を遮断し、意識は暗闇の中へと沈んでいった。



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