雨のち雨 | ナノ

雨のち雨












 ああ、そうだ。アイツが居たなぁ。そう思って電話を掛けてみる。


『―――不律(ふりつ)?』


 まさかワンコールで出てくれるとは思わなかった。俺は小さく笑った。


「郁人(いくと)、俺死にたいんだ」
『は?』


 驚いたらしい郁人の声に我に返る。あ、間違えた。


「悪い、間違えた。俺死のうと思ってるんだけど、やっぱ毒の方が良いかな?」
『待て。更に悪くなってる。どういう事だ』


 そのままの意味だけど。そう言った俺に沈黙が返ってきた。うーん、そうだな。言葉が足りないのか。


「俺にはもう居場所が無いんだ」


 そうなったのはもちろん俺のせいだけど。吐き出した声は思ったよりも低く、まるで俺の心を反映しているようだった。明るく言おうと思ったのに失敗したな。何だって良いか。どうせ死ぬ事には変わりないんだし。


「何で郁人に電話したんだろうなぁ」


 本当に分からない。何故だろう。生きる意味はなくて死ぬ意味はあるというこの残酷な状況で、生まれた時からずっと一緒だった幼馴染の顔が思い浮かんだ。
 俺の顔は上の下でまあまあなのに、郁人は特上の男前だ。並ぶと俺が平凡に見える不思議。結局学園には特上ばっかりだから俺は平凡に見られるのだけど。


『経緯を説明しろ』
「経緯…経緯、ね」


 そんなの言ったとしても俺の愚かさが再確認されるだけだと思うんだけどな。でもこの幼馴染様の命令は絶対な訳で。俺は嘆息しながらどこから話そうかと思案しながら口を開いた。



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