一度死んだ命 父親が離婚すると言い出したその日。母親が半狂乱に陥ったその日。腕に煙草を押し付けられたその日。父親が新しい女と帰っていったその日。母親が風呂場で自殺未遂を計ったその日。首を絞められて死にそうになったその日。 ―――俺は、一切の感情を自ら捨てた。 「…いらない」 俺は母親がとうとう自殺に成功したという知らせを聞いても無表情だった。あの日以来、心を持つことをやめた俺に、母親の死さえも無と判断したようだ。母親だった骨壺を手にした。軽いのに重く感じる。 嫌味な程に青い空を見上げて小さく呟いた。そう、何もいらないのだ。俺の存在意味もない。 これからどうしようか、とぼんやり考える。義務教育を後一年残した身ではどうしようもない。貯金があるようにも思えない。 「…いっそのこと」 ―――死んでしまおうか。 そっと目を閉じる。生きている意味が、価値がない。親戚が引き取ってくれる気配もない。まさか、父親の元へ行く訳にもいかない。葬式にさえ顔を出さないのだから。 行く当てもない。財力もない。現状を把握すればするほど、冷静になればなるほど選択肢が鮮明になっていく。不思議と、死に対して恐怖も躊躇もなかった。 ←|戻|→ . |