魔の刻印 | ナノ

魔の刻印











 僕は魔の刻印がこの左胸にある。そう、言うなれば心臓の上に。


 生まれついての体質というものは厄介なもので、僕は生まれつき病弱な体質だった。
 それでも本能で生きようと必死だった幼いと言うには若過ぎた3歳のある日。僕は風邪をこじらせて瀕死の状態だった。大病の元、とはよく言ったもので僕は典型的なソレだった。医師でさえ手をつけられない病状で、僕は生きるために決断を下した。 その生き長らえるための代価が、この“魔の刻印”。15歳になったなら[彼]のものになるという契約。そして更に重ねて言うならば、今日が僕の15歳の誕生日だったりする。


 15という年齢、それは世間で言うなら婚姻可能となる年齢ではあるが、僕にとってはまさに“これから”という年齢だ。やりたいことは山ほどあるし、まだまだ遊び盛りだ。しかし契約は契約。待ってくれるはずもなく。


「―――お前を迎えに来た。逃れられると思うなよ」


 ゆらりと闇のマントを揺らし、[彼]はやってきた。音も立てずに僕へと歩いてくる。風など起きていないはずなのに、[彼]は黒と呼ぶには余りに深すぎる髪を豪快に靡かせていた。
 何もかもが黒に染まっている中で異様に白い肌は不気味以外の何者でもなかった。それでも僕はそれらの怪しいコントラストを美しいと思ってしまった。白い肌に形良い唇が弧を描く。綺麗過ぎて怖くも見える[彼]は音もなく笑った。


「―――“     ”は俺のものだ」


 理不尽に吐かれる言葉は甘い睦言のように僕の中へと抵抗なく入り込んできた。僕に首を横に振ることは許されない。じっと吸い込まれそうな瞳の黒を見つめた。


「―――抵抗するか?」
「いいえ」


 ゆったりと首を振れば[彼]は驚いたのか黒を僅かに見開いた。


「…面白い」


 [彼]はくつりと喉の奥でひとつ笑うと、やはり白い手を僕に向かって差し出してきた。


「貴方のお名前を伺っても?」
「…“     ”」
「“     ”様、どうか」


 不自然に途切れた言葉の先は、言わない。けれど僕は小さく微笑んで[彼]、“     ”の異様に白い手に自分の手を重ねた。


end.


[彼]は強いて言えば魔王。
彼は主人公に本名を言っていますが、魔王の世界では本名は番(つがい)にしか言わない制度があるという裏設定。
つまり魔王は主人公にらびゅーです。



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