くらし、 | ナノ

くらし、











 物心ついた時から、俺はあいつと一緒だった。だから、離れる事なんて考えた事もなかったんだ。


 彼女が出来たら一番に報告した。あいつは少し悲しそうに、でも綺麗に笑って「おめでとう」と言った。共に帰れない事も次第に多くなった。
 愚かにも、失ってから気付いた。何よりも大切なのはあいつだってこと。


 大学の入学式。見知らぬ顔ばかりが並ぶ中、あいつを見つけ出せなくて携帯で電話した。


「お掛けになった電話番号は現在使われておりま―」


 オネエサンの声を途中でぶった切りうずくまった。ああ、俺は見限られたのか。




くらし、
(暗し*愚かだ)
(暮らし*毎日を送る)




 あいつの両親に直談判したものの、口止めされているらしい。どうすることも出来なくて、あいつのいない空間で過ごさなくてはいけなかった。
 あいつが悩んでいることに気付けなかった自分は誰よりも愚か。彼女と付き合う気にもならず、俺は未だに空虚な日々を送っている。


(お前は俺の知らない所で知らない奴と笑っているのだろうか)


end


リクエストされたので「かなし、」の続編。二人は決してハッピーエンドにはならない。



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