かなし、 | ナノ

かなし、











 愛したかった。愛していたかった。だけど俺にはもう出来ない、許されない。

 どうしたってお前には彼女がいるし、まず男同士であるし。社会に認められるわけもなく、ましてやお前に受け入れてもらえるわけもなく。
 そろそろ潮時だろう。もう、良いと思う。俺は長く長く苦しんできた。もう疲れてしまった。
 そう、疲れたんだ。愛することに、思いを隠すことに、お前と一緒にいることに。
 「大学に一緒に行こう」と言い出したのは俺だったか、お前だったか。その言葉のままに二人で試験を受け、発表を見に行ってハイタッチした。奇跡的にどちらとも合格したんだ。


「大学かーワクワクするな!」
「…そうだな」


 分かりやすいまでに目を輝かせるお前。ああ、罪悪感が胸を痛ませる。俺にはお前は眩し過ぎた。
 お前を裏切った俺をどうか許してくれ。



かなし、
(哀し*悲しい)
(愛し*いとしい)


 さようなら、恋心と呼ぶにはドロドロしたこの思い。



 俺は静かに涙を零した。今頃お前は入学式だろうか。俺がいないことに気づいただろうか。
 お前に秘密で遠くの大学に入る俺のことを、少しは考えてくれてるか。もう会うことは無いだろうけれど、どうか。






(俺がお前の頭の片隅に在るならば、そこが俺の居場所だから)


end



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