兄が出来ました 続々編3 | ナノ

兄が出来ました 続々編3











 純粋な冗談であるのは分かっているから、怒ることも出来ない。佐多日向という人物は見境なく暴力を奮うことはない。ただ敵意には敵意を返すだけだ。ただし好意に好意を返すということでもないのだが。


「じゃあひぃ君で。これ以上は譲れません」
「…はぁ。もういい。何でもって言ったのは俺だからな」


 うわ、無駄に男前。外見も性格も男前とか、そりゃあクラスの女子がキャイキャイ騒ぐわけだ。こういう極上美形がいるから俺みたいな平凡は肩身が狭いんだっての。
 心の中でぶちぶち言っていると、不意に頭を撫でられた。キョトンと目を数度開閉して乗せられた腕の先を見ると、相変わらず無表情な日向が居た。その目がどこか柔らかいことに気づき、つられるようにしてふにゃりと笑う。


「………」
「…やっぱり、良い人です」


 無言で撫でてくる手が思いの外気持ちよくて、岬は猫の如く擦り寄った。二度目だが、あえて言おう。…シュールだ。


「…敬語じゃなくて良い」
「それもそっか。分かった、ひぃ君」


 頷いたのを見て日向は満足げに口角を上げた。美形は美形だが強面なので恐怖をそそる笑みである。
 うーん、笑うと更に凶悪になるんだ。中身は優しいのに、この顔(失礼)のせいで色々と誤解されてそう。
 岬の推測は当たらずとも遠からず。確かによく誤解されるが、喧嘩を売られても本人も喧嘩好きなので問題は無いし、逆に怯えられて逃げられるのも煩わしくなくて良いと思っている。
 それに、日向のことを「優しい」だなんて言う大物は岬ぐらいだ。喧嘩は負け知らず、許しを請われてもやめない日向は冷酷無慈悲であると有名である。そうとも知らない岬はただ優しく撫でるその手を甘受していたのだった。


end



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