兄が出来ました 「ん?」 一人の少年が、寝惚け眼で母親を見上げる。自棄に若々しい母親はキャッキャとはしゃでいる。 「ママ、この度再婚することになりましたーっ」 「は。」 「やだ、キョトンとしちゃって可愛いー!」 「可愛いのは母さんだから。じゃなくって、なんて?」 「うふ、もうお世辞が上手いんだからぁ。だから、ママ再婚するのよ」 「………へぇ」 長い沈黙の後、少年は頷いた。 「それでね?今からパパが来るのよー」 「え、それどういう」 ピンポーン 「…」 「はぁい!」 パタパタと可愛らしい音を立てて玄関へと急ぐ母親を胡乱げな目で見送る。 いや、いいけどさ。カミングアウト遅いし。しかももう来ちゃったみたいだし。 少年はのそりと起き上がって着替え始めた。 ―――ガチャリ、 「…」 「……」 少年は上半身裸のまま無言で固まった。視線の先にはいかにも「不良」って感じの男前さん。 え。いや、この人見たことあるんだけど。いやそれどころじゃなくて有名人だよね、しかも超のつく。 整いすぎた顔立ちは一度見たら忘れられない。少年はただただ「彼」を凝視する。「彼」もまた少年を凝視していた。 「佐多日向(さたひゅうが)、さん?」 「ああ」 確信を持って、しかし否定の言葉に期待して少年は声を発した。だがあっさりと肯定されたそれに、少年はただ呆然と「彼」−佐多 日向―を見つめるのであった。 ってか何で此処に「魔王」がいるの。え。俺の部屋だよね、此処。地獄じゃないよね? 「魔王」と呼ばれ有名中の超有名人の佐多日向。目が合ったら殺される、と有名なのである。平々凡々な一般人であっても、名前を聞いただけで震え上がるだろうその人が。 「…お前、栗野岬(くりのみさき)か?」 「あ、はい」 日向に名前を呼ばれてはっと我に返る少年―栗野 岬―。この状況を打破する術を、この人は知っているだろうかと期待を寄せて口を開く。 「あの、これはどういうことでしょうか」 「…義兄弟になる」 「あー」 大体の状況は掴めた少年、岬。 新しい父さんの息子さんが佐多日向ってこと?まさかの展開すぎない?え、俺の兄さんになるわけ? それこそ呆然と日向を見ながら、案外冷静に考える岬。 これが魔王こと佐多日向と、冷静な少年栗野 岬のファーストコンタクトだった。 end 補足 魔王な兄と冷静な弟くん。 上半身裸のままファーストコンタクト終了です。 弟くんは意外と鍛えてるから腹筋あるのよ、な感じの裏設定。 ←|戻|→ . |