幼馴染はシンデレラ | ナノ

幼馴染はシンデレラ












 私は日高優良(ひだかゆら)、高校三年生。彼氏いない歴イコール年齢という寂しい毎日を送っている平凡な女子高生です。彼氏、欲しいです。でも出来ません。それにはとある原因があります。
 その原因とは私の幼馴染の小沢博士(おざわひろし)です。他に理由あるんじゃないかって思うでしょうけど、最後までお聞きください。ひー君(幼馴染の愛称です)はものっすごい美少女(・・・)なんです。あ、間違えた。美少年(・・・)でした。
 普通に女子用の制服を着せてもなんら違和感を感じないってくらいに女顔なんです。それもめっちゃかわいい。テレビによく映るアイドルなんて目じゃないくらいにかわいいんですよ。べらぼうにかわいくて、もう撫でまわして抱きしめてその柔らかいほっぺにちゅうしたくなるくらいに。
 女の私ですらそうなんですから、男は放っておきません。基本的には仲のいいクラスで、異様に美少女フェイスなひー君を避けることなどしません。けど、他のクラスは違います。ひー君を飢えた獣みたいなギラギラした目で見ていることもしばしば。
 私はひー君と同じクラスで、かつひー君自体が私にべったりなので嫉妬の視線が痛いんです。私の身長は女子にしては高めの168センチ。ひー君はというと男子にしてはかなり低い153センチ。およそ15センチの差があります。
 今も私の腕に引っ付いて可憐な笑顔を浮かべるひー君はかわいすぎるほどかわいらしいです。って、あれ?なんだか違和感が。


「ひー君」
「なに?優良ちゃん」
「もしかして身長伸びた…?」


 違和感の正体は身長差が少し縮まったこと。ひー君は私の言葉にパッと華咲きました。


「気づいてくれた!?俺、最近成長痛で寝れないんだよ」


 寝れないことは良くないことなのに、嬉しそうなひー君を見ると、まあいっか、って思ってしまいます。かわいいかわいいひー君が嬉しいのなら私も嬉しいのです。たとえその美少女フェイスから『俺』という似つかわしくない三人称が飛び出してきても、ひー君はかわいいに違いないのです。
 頭を撫でたいのを寸前で堪えて、良かったねと言うだけに留めます。近頃ひー君は頭を撫でると不機嫌になるのです。『また俺のこと可愛いとか思ってるんだろ』って言うんですよ。私は否定せずにその場を流しましたが、ひー君はどうやら私にそういう扱いをしてほしくないようでした。ので、頑張って控えています。遅ればせながらの反抗期でしょうか。私は少々寂しいです。


「優良ちゃんを抜かすのも時間の問題だよ!」
「楽しみにしてるね」

 出来ればそのままかわいいひー君でいてほしい、という気持ちには蓋をします。意気込むひー君は相変わらずかわいい。まだまだその日は来なさそうだと、私は安心して微笑みます。


「あー、ほんと優良(・・)可愛い。食べちゃいたい」
「? なんか言った?」
「ううん!なんでもないよ」


 ボソリと呟いた声に聞き返しました。なんだか悪寒を感じます。風邪でしょうか?
 ぶるり、体を震わせた私にひー君が「大丈夫?」と覗き込んできました。そんなかわいいひー君に悪寒も風邪も吹っ飛んでしまいます。


「大丈夫だよ」
「ほんと?ならいいけど。調子悪かったら言ってよ」


 ひー君が心配してくれたら風邪なんてひいていられません。かわいいひー君がオオカミに食べられないように、私が守らなくては!


 ―――私はその時まだ知りませんでした。守られているのは私の方で、かわいいかわいいひー君がやがて私の身長を抜かした時、オオカミとなって私を押し倒してくるという未来を。


『え?なんでひー君は私の上に乗ってるの??』
『優良を食べたいから』
『おおおお美味しくないよ!?駄目だよカニバリズムは!』
『違う。食べたいっていうのはこういうこと』
『んう!?…んっ、な、まっ!』
『待たない。優良可愛い』
『っかわいいのはひー君でしょう!?』
『可愛かったの間違いだろ?…もう黙れ』
『んんっ!』


 シンデレラは実はオオカミで、さしずめ私は赤ずきんだったということですか。神様ちょっと面(つら)貸してくださいませんかね?



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