にんげんかんさつ1 | ナノ

にんげんかんさつ1












 私は最近人間観察に勤しんでいる。観察対象は私の斜め前の席に座る男子。名前は新川健太(あらかわけんた)。地味というわけでもなく、だからといって人気者というわけでもない平々凡々な男の子だ。ファンタジー世界で言うところの村人C(ここでAじゃないのがネック)。
 そんな普通男子である新川くんを観察するようになったキッカケはというと、たまたま彼の視線の先にある人物に気付いたからだ。その人物とはクラスで一番、学年でも上位に入る可愛いと評判の女の子、岡本夢(おかもとゆめ)。大きな目に桜色の唇、病弱ゆえではない健康的な白さの肌。少し内気な性格ではあるが、彼女のはにかみは誰から見ても可愛いと評されるものだろう。そう、新川くんは彼女に恋をしているのであった。
 だけど彼女には好きな人がいる。隣のクラスの山里蓮(やまざとれん)という人気者の部類に入るサッカー少年だ。さわやかな笑顔が印象的で、密かに女子から人気がある。彼女もまたそんなさわやかな笑顔に恋に落ちたのだった。厳密に言うと、ちょっぴりウッカリさんな彼女が移動教室先で教科書を忘れてしまい、山里くんがわざわざ教科書をホームルーム教室まで返しに来てくれたのだ。教科書を渡してくれた時のさわやかな笑顔にキュンとしてしまった彼女が恋をしたのはテンプレというわけで。
 どうして私がそんなに詳しいのかというと、私が彼女の親友という立ち位置にいるからだ。渦中には巻き込まれない場所でこの三角関係を見るのが最近のマイブームなのである。

 今は4時限目、あと5分で昼休みに入る。私は新川くんの斜め後ろの席であるために、彼の視線がどこに向いているのか丸分かりだ。現在進行形でじっと夢を見つめている新川くんをバレないように見る私。夢はまったく気付く素振りを見せずに教師の話をぼーっと聞いている。…いや、あれは聞いてないな。右から左に流れているだけだろう。
 夢がふと壁時計を見上げた。昼休みまであと少しだということに気付いたらしく、大きな目がキラキラと輝いた。そんなわかりやすい様子に新川くんはふわりと頬を緩ませた。目が好きだと物語っている。そんな彼が不意に顔を曇らせた。たぶん、ライバルのことを思い浮かべたんだろう。新川くんが普通男子だが空気を読むことには人一倍長けている。その長所によって夢に好きな人がいることに気付いてしまっていた。新川くんは紛らわせるかのように目を伏せた。


(あ、意外とまつげ長い)


 ―――キーンコーンカーンコーン…


 丁度その時にチャイムが鳴り、教師は号令をかけて教室を出て行った。夢が真っ直ぐに私のところへとやって来て笑う。


「明音(あかね)ちゃん、ご飯食べよう」
「うん」


 ずれているわけではないけど眼鏡を直した。私のクセだ。
 夢は女の子らしい小さな弁当箱を私の机に置いて、隣の女子に声をかけて椅子を借りた、私も弁当箱と水筒を鞄から取り出す。


「いただきます」
「いただきます」


 二人揃ってウェットティッシュで手を拭いたあと、手を合わせた。行儀が良いとは言えないけどお喋りに興じることにする。



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