フロム・フラワー3 | ナノ

フロム・フラワー3












 ご飯も食べ終わり私は食器を洗ってひと休み…とはいかない。オリヴィエールさんが今日摘んできた薬草を干すのを手伝いながら、それぞれどういった効能がある草なのかを頭に叩きこむ。
 それが終われば薬を調合する作業を見学。今日は風邪薬を調合している。ゴリゴリと薬草をすりつぶすのをお手伝い。うーん、やっぱりこのサイズは不便だなあ。すぐ疲れちゃう。そう思った私はついぽろりと口からこぼしていた。


「大きくなりたいなあ…」
「…なるか?」


 思わぬ返しに私は手を止めてオリヴィエールさんを見上げた。


「なれるんですか?」
「俺と共に在ると誓うのなら可能だ」


 すでに一緒にいるような。首を傾げる私にオリヴィエールさんが「ずっとだ」と補足した。オリヴィエールさんとずっと一緒にいるのなら大きくなれるの?そんな簡単な、と考えてはたと固まる。


「…オリヴィエールさん」
「なんだ」
「違っていたらすごく恥ずかしいんですけど、なんだかプロポーズみたいに聞こえます」
「プロポーズだからそう聞こえてくれないと困る」


 ………。え、今なんて?


「ラティーシャ、お前を一目見た時から好きだった。この先命ある限り俺の隣にいてくれないか」


 グリーンの瞳が私を映してきらめいた。オリヴィエールさんの言わんとしていることを理解するのに数秒を要した。じわじわと火照るほっぺを両手で押さえる。
 スキって「好き」?オリヴィエールさんが私を「好き」?まさか、そんなことって。
 ぐるぐると頭の中を駆け巡る。私は精霊であると知ったその時にはオリヴィエールさんをそういう対象として見ていなかった。だって種族が違うとなれば恋愛対象としては除外されるもん。確かにあまりお目にかからないような男前だけど、それも目の保養くらいにしか考えていなかった。だから、つまり、混乱しているのだ。
 オリヴィエールさんほどの人が私をそう見ていてくれていたなんて。冗談だとは思わない。彼の目が不安そうに揺れているのを間近に見ているのだから。オリヴィエールさんの気持ちを否定するようなことは出来ない。
 落ち着け、私。とりあえず深呼吸。私の気持ちを考えてみよう。オリヴィエールさんに告白されて、どう思った?―――嬉しかった。プロポーズされて嫌だった?―――まさか、そんなわけがない。
 もう答えは出ている。私はたぶん、きっと、オリヴィエールさんのことが好き。うん、好きだ。しゃべり下手なところも、優しく見守るグリーンの瞳も、まめだらけの大きな手も、ちょっと野菜が苦手なところも、めんどくさがりなところも、腰に響く低い声も、安心できるその存在感も、すべて。
 こんなにいっぱいの好きが溢れてくる。たぶん、ずっと前から私はオリヴィエールさんのことを慕っていたんだと思う。きっと、私に手を差し出したその日から。


「…私がおかえりなさいって言ったら、ただいまって言ってください」


 突然話を変えた私に、オリヴィエールさんは不思議そうな顔をしながらも頷いた。


「帰ってきたら、手洗いうがいは忘れないこと」
「…ああ」
「嫌いな野菜を残さないこと」
「………わかった」
「洗濯物は毎日きちんと私に渡してくださいね」
「ああ」
「めんどくさがらずヒゲを剃ってください」
「…ああ」


 渋い顔で頷く彼にクスリと笑う。


「それから、浮気はしないでくださいね」
「ラティーシャ、それって」
「こんなわがままな私でよければ、隣にいさせてください」


 言い終わると同時にふわりと身体が浮き上がった。次に目を開ける時には、私は人間サイズになっていた。大きくなっても、オリヴィエールさんはもっと大きいので見上げることになる。
 ふわりと微笑を浮かべて逞しい彼の体躯に飛びついた。


「私も、オリヴィエールさんのことが好きです」
「…ラティーシャ」


 顎に手を添えられて上を向かされる。そのまま重なる唇を甘受した。


◇◇◇


「おや、ラティーシャじゃないか」
「こんにちは、ロリエさん。腰の調子はどうですか?」
「薬がよく効いてほぼ完治したよ。旦那に礼を言っといてくれないかい」
「承りました」


 ロリエさんににっこりと笑い返す。私が彼と共に在ることを誓ってから数日が経っていた。すっかり人間サイズの姿が板について、村中のみんなからは祝福の言葉とからかいの言葉をいっぱいいただいた。
 あちこちから「やっとくっついたか」という声が聞こえてきて、どうやらオリヴィエールが私のことが好きであることは周知の事実だったことが判明。周りから言わせてみればバレバレだったそう。…気づかなかった私って…。
 私が精霊であることに関しては村の人たちは好意的だ。どうやらこの世界、たくさんいるってわけではないけど人と精霊が結ばれることは珍しいことではないらしい。奇異な目で見られたらどうしようと思っていたけど、杞憂だったようだ。


「旦那もねぇ、3年前にここに来た頃とは随分雰囲気が優しくなったよ。ラティーシャのおかげだね」
「…3年前?」
「おや、知らないのかい?旦那は王都からわざわざこの辺鄙な村にやって来たんだよ。どんな理由があったかは知らんがそれなりの身分を捨ててきたみたいだしねぇ」


 ロリエさんいわく、当初オリヴィエールさんは村では滅多に見れない最高級の衣服を身に纏っていたそう。一年近く一緒に暮らしてきたけど、そう言われてみればオリヴィエールさん自身についての話は聞いたことがない。旦那様の謎が深まるばかり。オリヴィエールさんって一体何者…?
 とりあえず家に帰ったら「ご両親にあいさつをさせてください」と頼んでみよう。もしかしたらオリヴィエールさんの謎に近づけるかもしれない。まあ、あいさつに行くのが本命なんだけどね。あわよくばってことで。やることもできたし、帰ろう。私の旦那様が待つ家に。


end


続きそうですが、ここで終わりです。気が向けば続きを書くかもしれませんが。
補足するとこの世界では婚姻届けや結婚式はありません。愛を誓って契ることで、両者の心臓の上に同じ紋様が浮かび上がる仕組みです。
このカップルにはほのぼのとしていてほしいです^^

●ラティーシャ
転生したら何故か精霊になっていた元日本人。物事を深く考えない性格で、割と天然のんびりさん。

●オリヴィエール
フェアリーマスターだがラティーシャ以外に契約精霊はいない。本業は薬師。無口で大柄なワイルド系美形。めんどくさがり。ラティーシャに一目惚れしてずっと片思いだった。



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