幸せでした3 | ナノ

幸せでした3












 ぼーっと桜を見上げる。なんだか眠くて、吸い寄せられるように桜の木の根元へと座った。背中を幹に預け、仄かに香る桜を感じながら目を閉じる。ああ。何故だか酷く眠い。意識がずぶずぶと沈んでいく。ああ、死ぬのかな。
 なんとなく本能的にそう感じた。此処で死ぬのも、悪くない。一人で、誰にも見られずに。


「―――みこ!尊(みこと)!!」


 誰かが、俺の名前を呼ぶ。この声は、彼だ。俺が間違えるはずがない。


「…成司(せいじ)?」
「尊!」


 重い瞼を無理やりこじ開ける。霞む視界に、待ち望んでいた彼があった。


「…成司」


 これは、夢だろうか。最後に神様がくれたご褒美かな。幻でも、いい。ただ伝えたいことが。直接、言いたかったんだ。


「せい、じ」
「みこ?」
「せい、じ…好きだ、よ。愛し、てる」


 ああ、上手く呂律が回らない。もう、終わりらしい。最後に、本当に最後に。


「せい、じ…幸せ、に…な」


 限界だった瞼を下ろし、つらいけど笑む。幸せだったよ、成司。だってこの広い世界でたった一人の愛しい人に会えたんだ。なぁ、成司。幸せになってくれよ。お前の幸せが、俺の幸せなんだ。


「尊…っ!!」


 暗闇の中で呼ぶ声は、俺には本物なのかはもう分からない。幻聴でも嬉しい。珍しく必死な彼の声を、独り占めできた。
 ああ、久しく穏やかな気分だ。俺は沈んでゆく意識に抗わず、静かに息をはいた。


「尊ぉぉおおお!!!」


end



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