ただいま4 | ナノ

ただいま4












「…そう。今日で、もう8年になるのね」
「…はい」
「貴方と雪が仲良く遊んでいたのが、つい昨日のことのようだわ。そんなに時は経っていたのね。こうして」


 母は自分の頭よりも高いところにある冬の顔に、右手を添えた。慈愛に満ちた彼女は聖母のようだと、無信教のくせに頭を過ぎった。


「生きている人間は、歳を取っていくのよね。…本当に大きくなった」


 彼女は寂しげではあるが、鬱々としたものは一切浮かべていなかった。意図を汲み取り、冬は自身に添えられた母の手に自分の手を重ねる。


「貴方には、苦労をかけたわ。雪のことは、貴方のせいじゃない」


 その台詞を、今まで何度聞いてきたことだろうか。慰めであるはずのその台詞が、幾度となく冬の心を切り裂いてきた。しかし。


「…でも、貴方が自分のせいだと思うのなら」


 母は真っ直ぐ、この世界に唯一人、愛する我が息子を見た。



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