ただいま3 「お父様は?」 「仕事よ。朝からそわそわして鬱陶しいから、追い出したの」 おっとりとそう言う母に苦笑を禁じえない。荷物を受け取ろうとする彼女に首を横に振り、次いでこの後の予定を聞かれる。 「明に会いに行こうと思っています」 「あらあら。折角だから連れてきなさい。一度お会いしてみたいと思っていたのよ」 「都合がつけばそうします」 「アポ取っていないの?」 不思議そうに目を瞬く彼女に頷いて、悪戯っぽく笑って見せた。唇に人差し指を当てて母を見やる。 「まだナイショなんです」 「わかったわ!ドッキリね」 彼女は閃いたとばかりに手を打ち、愉しそうな表情を浮かべた。同様の顔をしていた冬だったが、不意に優しく微笑んだ。 「…雪の、墓参りに行ってきます」 その言葉に母も表情を変える。冬を見ているはずなのだが、どこか遠いところを見つめているような目をしている。恐らく、冬の後ろに雪を重ねているのだろう。 冬も目を閉じて愛しい分身を思い浮かべる。記憶の中では、雪は10歳の姿のまま時を止めてしまっている。 もしも、雪が生きていたなら。どんな姿で、冬を抱きしめてくれただろうか。 ←|戻|→ . |