2011 クリスマス3 「奇遇でございます、雅様」 「はい。此処に勤めていらっしゃったのですか」 ほのぼのと会話をする二人に息吹はもやもやとした感情を持て余していた。雅の笑顔を向けられるのは自分だけで良い。自分だけが、良い。苛立つ原因は分からず眉を顰めた。 「雅」 諫むような声音でやんわりと雅の注視を自分に向けさせる。雅はふと思い当たり微笑んだ。 「此方は藤井有華さん。母のお弟子さんなんです」 「…弟子?」 「はい。母は茶道を生業としていて、俺も時々有華さんと茶を点てたりしてるんです」 「雅様は凄くお上手なんですよ。私はまるで及びません」 にこにこと有華が言う。成る程、と頷くと同時に疑る関係では無さそうな雰囲気に安堵している自分に酷く困惑する。小さく息を吐き出した息吹を見つめて有華は呟いた。 「鬼束様が思うような関係ではありませんからご安心下さいませ」 「関係?」 雅は意味が理解出来ず有華と息吹を交互に見る。息吹はひくりと頬を引きつらせた。 「本日はどのようなご用件で?」 困惑する雅の思考を遮り有華は言葉を発する。本人すら心に抱く雅への気持ちを分かりかねているのだから、これ以上詮索はさせまい。有華は微笑みで隠しながら雅の意識を逸らせる事に集中した。 雅はまだ戸惑いながらも「贈り物を」と伝える。一端有華は首を傾げるが、すぐに手をポンと叩いて「ああ」と頷いた。 「クリスマスプレゼントですね」 相変わらず仲がよろしいですねと微笑む有華は、どうやら家族全員の雅コンプレックス具合を知っているようだ。なんとなしに和やかになる空気だったが、息吹にとっては面白くない。 何故だかは分からないが、有華に対して良くない感情が向く気がする。時折家の用事でこの店に寄り有華ともよく会っていたにも関わらず、こんな気持ちを抱くのは初めてだ。 「息吹さん?」 不思議そうに見上げてくる雅を同じように見返す。見かねた有華が「腕を掴んでいらっしゃいますよ」と指摘して初めて、息吹は雅を引き寄せている事に気付いた。 離そうとするもどこかでそれが嫌な自分がいて離す事も出来ない。有華は青春ですねぇ、と生暖かい目で二人を見守る。 「去年は何を差し上げたのです?」 必死に助けを求めるように見られては助け舟を出さない訳にもいかない。有華は雅の視線の意図を汲み取り本題へと話題を移した。あからさまにホッとする雅と所在無さげな息吹が有華を見やる。 それでも看板娘は笑みを崩さずに店の奥へと二人を促すのだった。 ←|戻|→ . |