2011 クリスマス ざわめきが普段よりも幾らか増した街は、どこも赤と緑と白に溢れかえっていた。頭上で流れる音楽は最早定番となっているジングルベルを始めとするウィンターソングばかり。往来の人々は寒さを防ぐ為にマフラーや手袋、耳当てなどを着込み鼻頭を赤くしている。 先急ぐ中で一人、ゆったりとしたスピードで道を歩く雅の姿があった。鮮やかなまでの黒髪を冷たい風が撫で、雅は首を竦める。 通りかかったカップルであろう二人組の内女性が、立ち止まり雅の美貌に見惚れた。モデル並みの容姿はやはり此処でも目立つらしい。横を通り過ぎた人々がものの見事に振り返り釘付けになっていた。 「―――…雅?」 後ろから掛けられた声に振り向くと、黒い見るからに高級感を漂わせるスーツを身に纏った息吹が立っていた。雅はどうしてこんな所に、と尋ねる。 スーツは普段から想像もつかないはずなのに似合い過ぎていて、彼の色気を申し分なく放出している。いつもとは違う、スーツに合わせた髪のセットもまた新鮮だ。雅は胸元に咲く造花を怪訝に思う。 「…パーティー抜け出した」 「えっ」 苦々しげに顔を歪める息吹に目を見張る。どうして、だとかいう疑問を飲み込んで何も無い首元を見、雅は自分が巻いていたマフラーを差し出した。息吹は一瞬目を丸くするが即座に首を横に振った。 「風邪ひきますよ」 「…お互い様だろう」 そうは言われても息吹も雅に風邪をひかれては堪らない。唯一と言っても過言じゃない気に入っている後輩を自分のせいで寝込ませたくはない。雅もまた苦笑して一つ頷いた。 「俺は別に買いますから。これはクリスマスプレゼントということで」 受け取って下さい、と更に前に差し出した。しかし「あ」と小さく声を上げる。 「買った方を差し上げた方が良いですよね」 「いや、良い」 失念だったと引っ込めようとした腕を掴まれ、するりとマフラーを奪われた。器用に自分の首に巻いていく息吹を唖然と見ていたのは数秒だけで、ハッとした雅は目に見えて慌てる。 「これが、良い」 あまりにも甘い柔らかな顔をするものだから、非難しようと開けた口を閉ざすより他なかった。寒さのせいだけではなく頬がほんのり上気する。息吹は眩しそうに目を細めた。 ←|戻|→ . |