幸せでした1 | ナノ

幸せでした1












 穏やかに、笑う彼が好きだった。
 付き合い始めて、1年が経ったある日に浮気をされた。けれど、俺は怒れなかった。だって彼は凄い美形なんだ、俺に飽きたのもしょうがない。まず第一に俺は非生産的な男だから、相手が女だって知ったら何も言えなかった。
 だって、言えないだろう?彼の将来を考えたら、女であることが正しいんだからさ。それでも俺は好きだったから一緒にいたんだ。許す、とかそういうのじゃなくて、ただ傍に。


 それから、半年が経ったある日。相変わらず浮気されていた俺に、衝撃の運命を告げられた。


「―――言いにくいのですが、貴方はいつ亡くなってもおかしくありません」
「え」


 気まずそうにそう言い放った医師。病名は、「大腸ガン」。もう手遅れなのだという。


「入院の手配をしましょうか」
「あの」
「はい?」
「入院しなきゃいけないんでしょうか」


 医師は俺の言葉に目を丸くする。


「した方が良いと思いますが」
「短くなっても、いいんです」
「そう、ですか。分かりました、貴方の意思を優先します」


 医師はそう言って辛そうに微笑んだ。俺の言葉の意味が分かったのだろう。俺も微笑み返して、頭を下げた。



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