2011 4月1日 「よォ」 「…おはようございます」 朝から朱鷺に廊下で偶然会い、あからさまに顔を歪める唯。朱鷺はそんな唯も気にせずにニヤリといつも通りの笑みを浮かべる。 「委員長、大好きですよ」 ニコリと作った満面の笑みで唯は言い切る。朱鷺は一瞬目を見開くが、すぐに合点がいく。 「ああ、今日は4月1日か」 「頭がイカれても俺がそんなこと言うわけないでしょう」 「酷い言われ様だな。俺は大嫌いだというのに」 心底楽しそうに咽で笑う朱鷺を冷めた目で見やる。するりと巻かれた腕をつねる。 「…離してください」 「意味は逆だろう?」 「なら離さないでください」 「まぁ離す気はないがな」 腕から逃れようと身を捩るが、結局意味を成すことは無く。唯は朱鷺を睨み上げた。 「…何をしている」 凛と腰に響く低い声に振り向く。そこには不機嫌そうに顔を歪ませた臣がいた。唯は助かったとばかりに肩の力を抜く。 「仕事がある。行くぞ」 「仕事熱心なことで」 「お前と一緒にするな」 ギロリと睨みあう二人の間の温度が数度下がる。臣に気を取られたのか、緩んだ朱鷺の腕から隙を見つけてすり抜けた。 「会長行きましょう」 「またなァ」 「またなんてありません」 ピシャリと言い放つ唯に朱鷺はクツクツと笑った後、その場を去っていった。残された臣と唯は踵を返し生徒会室へと向かうのだった。 「―――どうぞ」 コトリと会長専用テーブルに入れてきたコーヒーを置く。あの後、溜まった書類をテキパキと終わらせて一段落着いた頃にはもうすでに正午を回っていた。 唯は自分の席へと座ると、ついでに入れた自分用のコーヒーを飲んだ。仕事のせいか固まっていた体に染み込んでいくのが分かる。ほう、と一息ついて体をほぐす。 「…あ」 「なんだ?」 悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべる。唯はニコリと笑って臣に向き直った。 「大好きですよ、臣先輩?」 「………」 唯の言葉に臣は固まる。その様子を面白そうに目を細めて見る。臣はゆっくりと口を開いた。 「正午を回ればエイプリルフールは無効になることを知っているのか?」 「さぁ?」 どうでしょうね、と笑う唯はそれはそれは可愛らしかった、と後に臣は話す。 end. ←|戻|→ . |