2011 バレンタインデー 平和を望む 今日は朝から皆が騒がしい。その意図に気づかず、怜那は首を傾げた。 「厳、何でだと思う?」 「怜ちゃんって本当に鈍感だよね」 「…そうなのか?」 ああもう、と厳は溜息をついた。鈍感なのはどうにも出来ないしねぇ、と呟く。 「―――望月くんっ!」 「あ?何?」 「これ!!受け取ってっ」 顔を真っ赤に染めたクラスメイトの一人が可愛らしい小箱を差し出す。怜那はキョトンとクラスメイトと小箱を見比べる。見兼ねた厳がアドバイスした。 「怜ちゃん、今日って何日だっけ?」 「今日?今日は14日ってあ、」 ようやく怜那は気づいたようだ。窺うように、目の前のクラスメイトが覗き込んだ。 「悪い、ありがとな」 「!ううん!!僕もいきなりごめんねっ」 「お返し用意してないな」 「別にいいよ!僕の気持ちだし」 「そういう訳にもいかないだろ…」 呆れた声を出す怜那を横目に見る厳は、「逆チョコの手もあったか」と内心で嘆いた。 「あ、」 何かを思いついたかのように怜那は呟いた。と思ったらゴソゴソと鞄を探る。 「これ、つまらんが」 キョトンとするクラスメイトの手に一粒チョコを渡す。あれだ。♪のついたチョコレート。 「!ありがとうっ」 顔を赤くさせ、大事そうにそのチョコレートを握り締める。 「こんなものしか無くて悪いな」 「ううん、これがいいっ」 ニッコリと、それそれは可愛らしい顔で微笑む。それにつられて怜那も微笑んだ。隣で厳は悔しそうに、というよりかは羨ましそうにそれを見ていた。 「ほら、厳も」 「え」 怜那はそんな厳にも気づかず、手にチョコを握らせた。驚きに目を丸くする厳に、怜那は笑う。 「いつも世話になってるからな」 「あ、りがと…」 いや、うん。そういう意味だとは思っていたよ。 厳は内心で呟くが、表では笑みを作る。どういう理由にしても、今日という日にチョコをくれたことは嬉しいものだ。ギュっと厳は手の中のチョコを握り締めた。 ◇◇◇ 放課後、用事があるという厳に頷いて怜那は一人で寮までの道のりを歩いていた。 「あ」 向こう側から歩いてきたその人に目を丸くする。 「雷先輩」 「よぉ。チョコレートは無いのか?」 「え、欲しいんですか?」 まさか、と怜那は笑うが雷は至って真面目だ。 「…えっと」 居心地悪そうに怜那は身をよじる。仕方が無い、と鞄から一粒チョコを差し出す。 「市販か」 「駄目ですか?バレンタインだって今日気づいたものですから」 「…まぁいい。それ、袋から出せ」 「?はい」 意味が分からないまま言う通り袋から取り出す。雷はいきなりそのチョコが乗った手を取り、唇を寄せた。 「え!?」 パクリ、 「ご馳走様」 「………え、あ、はい」 何が何やら分からぬまま、雷が去っていくのを怜那は見つめた。手に残る柔らかい唇の感触はいつまでも残っていた。 end ←|戻|→ . |