2011 ひなまつり | ナノ

2011 ひなまつり












 怜那はその日、寮監から連絡を受け寮監室へと来ていた。怜那に客なのだという。結局誰なのかは教えてはくれなかった。…何故なのだろう、策略を感じる。


「ども、望月ですけど」


 コンコンコン、とリズムよくノックすれば勢いよくドアが開いた。


「ぅおっ!?」
「怜那ぁぁあああ!!」


 突進するような勢いで突っ込んできた人をギリギリで受け止める。怜那は目を白黒させながら、その抱きついてきた人の顔を確認して更に驚く。白い肌に黒髪は艶やかで、整ったその顔は絶世の美女と言えるもの。
 しかし怜那はその人のことをよく知っていた。それはそうだろう。生まれたその瞬間から面識のある、むしろ母親のお腹の中にいる頃から一緒にいた、誰よりも近い異性でもあり誰よりも近い―――血縁者。


「真那!?」
「ええ」


 そう、彼女は怜那の実姉であった。真那は嬉しそうに怜那の肩に顔を埋めながら頷く。


「何しに来たんだ?」
「あら、用事がないと来てはいけないのかしら?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ」


 困ったように怜那は自身の頭を掻く。


「こんな山の中まで来るなんてよっぽどの用事かと」
「まぁ、よっぽどと言ったらよっぽどかしら」
「結局用事はあるのか?」
「怜那に会いたかったのよ」


 自他共に認めるブラコンである真那はニコニコして言う。そんな姉を見て怜那は苦笑した。


「用事は別にあるんだけどね」
「あるのかよ」
「はい。これ怜那のために持ってきたのよ」


 ウィンクする真那に持たされたのはダンボール。怜那は首を傾げながらそれを受け取る。


「これ何?」
「開けてからのお楽しみよ。さあ怜那の部屋に行きましょ」
「は?え、来るのか?」
「別にAVとかあるわけじゃないんだからいいでしょう?あっても困らないけど」
「女の子がそんなこと軽く言わないように。まぁ無いけど」

 その美しい顔からその言葉は聞きたくない。怜那は一応釘を刺しておいたが真那は気にせずにっこりと微笑む。無駄であると分かった怜那は項垂れた。


「さ、開けてみて」
「ああ」


 潔く部屋に案内した怜那は真那に急かされるままダンボールを開ける。するとそこには。


「…真那」
「どうかした?」
「俺、男だと思うんだけど」
「ええ、そうね。私に妹はいないはずだわ」
「じゃあこれ何」


 指差す先はダンボール。つまり。


「え、雛人形よ。怜那知らないの?」
「そういう意味で聞いてるんじゃないって」


 そう。真那が持ってきたのは「雛人形」であった。


「だって私婚約してるからもういらないし」
「だからって何で俺に…」
「怜那がお嫁さんにいつでも行けるように!」
「…俺、男だから」
「まぁまぁ」


 真那は雛人形を取り出して玄関に飾る。


「ちょ、勝手にっ」
「だって飾らないとお嫁に行けないじゃない」
「だから、俺は嫁にならないって!」
「嫌よ嫌よも好きのうちでしょ」
「それ絶対使い道違う!!」
「じゃ、私帰るわね。怜那補給も出来たことだし」
「え、まっ」


 バタン、と閉まったドアを怜那は呆然と見やった。嵐だ、という呟きは溶けて消えた。


end.


あえての雛祭りを選択。楽しかったです。個人的に真那さんが好きだったりするので(笑)美人の口から下ネタとか本当に楽しいですね。すみません自重します。



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