vs.チワワ3 「気持ちは俺にも分かるが、雷先輩の隣を譲ることは出来ない」 「………」 反論してくるかと思えば意外に聞いてくれているようだ。触り心地の良い髪質を十分に堪能してから手を下ろす。俺はチワワと目線が合うように軽くしゃがみ込んだ。複雑そうな表情をしているチワワの顔がよく見える。 「他人に何を言われても俺は雷先輩のことが好きだから」 これだけは、どうしても譲れない。伝わればいいとチワワの目を真っ直ぐに見つめる。 「―――…った」 「え?」 「っ二度も言わせないでよ!分かったって言ってるの!!」 聞き取れずに首を傾げた俺に、チワワは赤くなりながら叫んだ。目を丸くしてパチパチと瞬いてから、ようやく言葉の意味を噛み砕く。 「―――…ありがとう」 自然と頬が緩んだ。認めてもらえるということは、こんなにも嬉しい。 「…皇様がアンタを選んだ理由、分かる気がする」 「え、」 「真っ直ぐだね、アンタは」 キョトンとする俺に彼はクスクスと柔らかく笑った。 「―――俺のだから惚れるなよ」 「惚れませんよ、気に入りはしましたけど」 「…ならいい」 背後から抱きしめられて目を白黒させる俺を余所に二人は平然と会話を続ける。…俺は無視デスカ。 「僕はお暇させていただきます。…存分にイチャついてください」 「イチャ…」 「またね、怜那」 いきなり呼び捨て?颯爽と去っていく彼を見送るしか出来なかった。 「お前はまた…ライバルを増やしてくれるな」 「ライバルって?」 「…いや、いい」 尋ねれば溜息をつかれた。何故。というか失礼だな。 「そういえば先輩、何時から聞いてたんですか?」 「"やっちゃって"くらいから」 「…ほとんど最初からじゃないですか」 助けてはくれないんですね、と言えば「身のこなしに磨きがかかったな」と返された。つまりは完璧に傍観体制だったってことですね…。この人はもう、と次は俺が溜息をつく番だった。 「…どさくさに紛れてキスマークつけないでください」 首筋にチリッと微かな痛みが走る。付けた当の本人はイイ笑顔を浮かべている。けれどそれを止めようとしない俺は、相当な馬鹿である。 end. ←|戻|→ . |