食事のマナーは守りましょう2 「何時間だ」 「…一時間です…」 「へぇ?」 一時間、ねぇ。朱鷺は口角を上げて目を細めながら呟く。ビクリと体を揺らすが、仕方がない。完全に目だけが笑っていないのだ。 その上威圧感が半端が無い。言外に責められていることに、唯は真っ青になる。 「人間は八時間睡眠が必要だと聞いたが、なァ?」 黙りこくる唯に心中で溜息を吐く。 「朝飯は食べたか」 「は、はい」 「何を?」 唯は半分諦めた。もう怒られるしかない、と。 「…コーヒーを」 「それは飯か?」 ゆらりと朱鷺はとうとう立ち上がった。怯えて小さくなる唯を見下げる。 「いつだ」 「え」 「飯を食ったのはいつだ」 (いつ…) 唯は記憶の欠片を引っ張り出す。 「………一昨日の昼?」 (カロリーメイトを食べたような) 曖昧な記憶に語尾が上がる。唯の言葉を聞いた瞬間、腕を掴んだ。そのとても男とは思えない華奢な手首に眉を寄せる。 「え、なんです…」 「食堂行くぞ」 「俺、遠慮しま」 「行 く ぞ」 「………はい」 そうして朱鷺に強制的に連れられて食堂にやってきて、冒頭に戻る。 「―――口開けろって」 二度目の台詞にようやく停止していた思考回路が回復する。しかしそれと同時に冷や汗も流れ始めた。唯は口の端をひくつかせる。 「や、あのぉ…」 公共の場であるから、一応チャラ男を装ってみるがそれでも顔が引き攣るのは止められそうもない。唯が注文したピラフをスプーンで掬って所謂「あーん」の状態。 朱鷺の唐突な行為に唯だけでなく食堂内にいる者全員が硬直する。ただでさえ艶やかな雰囲気を醸し出す朱鷺が更に口元を三日月に歪めることによって、どこか見てはいけないものを見てしまったような気分になってしまう。 「折角俺が'あーん'してやってるのに食べないのか?」 (((委員長が'あーん'とかシュール!!!))) 唯と食堂内にいる(朱鷺を除いて)全員の心の叫びが一致した。そんな食堂に、ある人物がやって来た。もちろん。 ←|戻|→ . |