白黒の世界2 「―――ん…」 「流(ながれ)、起きた?」 もぞりと身じろぎすればすぐ傍から声が聴こえた。ぼやける目を擦って顔を向ける。 「おはよう、ございます」 「おはよ」 微かに笑みを浮かべる青年。 「夢…」 「?何か夢見たの?」 「うん。初めて巧(たくみ)さんに会ったときの」 夢よりも幾分か雰囲気が柔かくなったと感じる。 「それは懐かしいね」 「うん。巧さん変わったね」 前よりも、感情が豊かになった。まだ出会って一年しか経っていないのにね。 「流のおかげだよ。流が、僕を変えてくれた」 ふわりと、それこそ当初「感情」を知らなかった彼が微笑んだ。愛しそうに、優しく双眸を細めて。それにつられて僕もまた微笑む。彼と同じように、愛しそうに双眸を細める僕が、彼の目に映る。 そうして、どちらからというまででもなく顔を近づけた。触れる柔らかい唇の感触は何処までも切なく、甘い。そっと離れて、お互いに手を体に巻きつけた。布団の中で抱き合い、存在を、その意味を確かめ合う。 「巧さん、」 「なに?」 「あの時の言葉、まだ覚えてますか?」 僕の言葉に、顔は見えないけれど笑う振動が伝わる。 「当然」 「僕は君を」 「「―――待っていた」」 二人重なる言葉に自然と笑みが零れる。あの頃はきっと分からなかった幸せの意味を、僕は知っている。心から笑える。いつまでもあの時あの瞬間色づいた世界を、忘れないだろう。何度口付けを交わし、何度体を重ねようと、あの記憶はいつまでも残る。そう、心の中で「僕」が言う。 未来にきっと、また思い出すのだ。そこにはきっと二人で笑い寄り添う姿がある。そして僕が微笑んでいる、色鮮やかな絵と共に。 end 色盲の画家×少年(中高生) *色盲(しきもう) →ある種の色が識別できないこと。今は色弱という。 ←|戻|→ . |