愛で縛ろう | ナノ

愛で縛ろう












 学園の理事長、つまり私宛の書類と秋花本家の書類を3分の2程終えたところで、気に入っているシンプルな文字盤の腕時計を見れば、そろそろ恋人が来る時間であることに気付いた。立場上毎日会うわけにはいかないため、週1の頻度で会うことを、恋人となったその時に約束した。私は秘書を雇っていないから仕事量は多く、今は丁度本家の後継者問題もあって忙しないし、怜那も学生としての付き合いと特待生をキープする上に勉強会も任せてしまっているから時間を取るのは難しい。
 時々、この年齢差がもどかしく思う時がある。愛しい恋人は無意識の内に他人を引き寄せるために悪い虫が多くて(この際、私自身が悪い虫の一人だということは棚に上げておく)気が気ではない。出来るのなら守ってあげたいが不可能だ。それに最近の若者は気持ちが移ろいやすい。いつ飽きられるのやらと思うと、やはり不安になるのだ。


「理事長、いらっしゃいますか?望月です」
「ああ。どうぞ」


 鬱々と考えていたらもう既に時間がきていたらしい。茶の準備をしようと立ち上がると、怜那がやると言ってきたので甘えよう。何度も出入りしているからどこに何があるのかは熟知しているので安心して任せられる。
 紅茶を淹れてくれている間に少しでも書類を片付けようと思ったが、手に付かない。何もすることがなくなったので、怜那に気付かれないようにそっと後ろに立った。テキパキと無駄のない慣れた手付きで準備を進め、一段落したのを見計らって細い肩に顔を埋めた。突然のことに驚いたらしい怜那が抵抗するのを封じるように腰に手を回せば、段々と落ち着いてきた彼は溜息を吐いて振り向いた。


「今日は甘えたですか?」
「…うん。甘えたい気分かな」


 否定せずに答えると、彼は少し肩を揺らして笑った後に私の頬に手を添えた。そのまま上を向かされて、触れるだけのキスをそっと落とされた。目を瞬いていると、怜那は柔らかく微笑んだ。


「好きです、湊さん」


 私が好きな表情で、こんな可愛いことを言われてしまえば、歯止めが効かなくなるに決まっている。冷静沈着という言葉が一番似合う人間だなと言って笑ったかつての旧友に、こんな姿を見られたら爆笑されるだろう。こんな…理性が崩壊した姿など。


「…ん、はぁ…っ」
「ふっ…君には適わないよ」


 私が悩んでいることも、彼の一挙一動で吹っ飛ぶ。君はタイミング良く欲しい言葉をくれるから、私は更に溺れてしまうのだ。


(君が私の心を掴んで離さないのなら、私は君を愛で縛ってあげよう)


end


秋花湊(理事長)×望月怜那でした。湊さんはやっぱり怜那を溺愛。怜那は包容力のある男前。怜那が卒業すれば養子縁組すると思われます。就職先は湊さんの秘書でしょうね。




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