白黒の世界 ある日僕は地元の近くでやっていたフリーマーケットに友達と一緒に行った。売っているものは予想通り普通で、興味の無いものばかりの中。僕は出会った。 「―――…」 それは、モノクロで描かれた絵。全てが白黒の、自然を描いた絵の中で一つ。やはり白黒の、しかし他とは違って生活感のまるでない散らかった暗い部屋の絵に惹かれた。 別に美術に詳しいわけでもない。ピカソの絵を見たって何が芸術で何が良いのかなんて分からない。そんななんでもない僕が初めて絵に、興味を持った。 「絵、好き?」 耳元で声がしてバっと振り返ると、背の高い青年が立っていた。酷く整った顔をしていて、でも白いその肌からは生気が感じられない。けれど不思議と怖い、とは思わなかった。 「いえ。特には」 「じゃあ何故止まったの?」 柔かい声音は何故か冷たく感じた。彼の暗い瞳のせいだろうか。 「この絵」 部屋の絵を指で示す。 「何か、…惹かれたんです」 何処に、と問われてもきっと応えられない。答えられない。分からない。でも、何かが自分の奥底から沸きあがってくるような、そんな感じがする。 「…そう?」 彼は何の感情もなく僕が指さした絵を見やる。…何だろう。胸騒ぎがする。この感じは何?この気持ちは、何。 「―――共鳴?」 無意識に吐き出された自分の言葉に驚いた。しかしそれと同時に自分の中でストンと落ちた気がした。僕のその言葉を拾ったのか、彼が驚いたような顔をしてこっちを向いた。 「これは、何…?」 未だざわつく自分の胸を服の上からぎゅっと掴む。悲しい?辛い?しんどい?疲れた?憎い?何が?…自分が?溢れだす言葉の羅列。 「―――虚しい?」 絵から感じるのは空っぽな心。あぁ、分かった。今なら分かる。 「同じ、なんだ」 僕と同じ。この絵と同じ。彼と同じ。生きることに疲れた。日々に飽きた。繰り返しに、社会に、自分に。 ポタリ 雫が自分の足元に落ちた。周りは騒がしいのに、ここだけは異常に静かだった。 「―――あぁ、やっと見つけた」 ふわりと温かい何かに包まれる。振り返れば先ほどまでの表情は何だったのか、幻だったのかと疑うような嬉しそうな色を宿した瞳にかち当たった。 「僕の世界は、君だ」 「僕の色は、君だ」 「僕は君を 」 ←|戻|→ . |