C薬指にくちづけを 「―――すのり、恭徳?」 「あ…」 肩を揺すられて恭徳は思考の渦から現実へと戻ってきた。大也は不思議そうに覗き込んでいる。顔が近い、と思って漸く膝枕されていることを思い出した。 そういえば、必死になって勉強を終わらせた恭徳に、大也はご褒美だか何だかと称して強制的に膝枕されることになったのだった。(まあ膝枕といえどもあぐらの上に頭を乗せているだけだが) 当然男である大也の太腿は柔らかいことはなかったが、それでも恭徳は幸せな気分になった。自分でもバカップルである自覚はあるものの、改める気は全くと言っていいほどない。 ただでさえ一緒にいる時間が少ないのだ。周りの目なんて気にしていられない。 「どうした、ぼーっとして」 「ん、ちょっと思い出してた?」 「何をだ?」 そのままの体勢で会話を続ける。不意に大也の顔が近くなると、唇に暖かいものが触れた。キスされたと気付いた時にはすでに唇は離れていて、見上げると悪戯っぽい笑みがあった。 「…大也とのこと」 「俺?」 「ココア、初めて入れてくれた時とか」 パチリ、瞬きを一つして大也は破顔した。 「あん時のお前可愛かったな」 恭徳は恥ずかしさと照れを隠すために全力で大也の腹を殴った。しかし毎日鍛えていると豪語するだけあってかなり硬い。 ダメージを与えるどころか、ダメージがあったのは自分の方だった。なんか無性に腹が立った恭徳は僅かに顔を顰める。 「…へんたい」 「恭徳限定のな」 開き直られては勝てそうもない。嘆息して赤くなっているであろう頬を手の甲で擦った。 そんな彼の様子を見つめるその目はとろりと優しく、愛されていることが分かる。この顔が、恭徳はとても好きだ。いつも意地悪ばかりするが、目はいつだって恭徳に語りかけてくれる。 無意識に手を伸ばして大也の頬に手を添えた。そして、ポロリと言葉が零れた。 「うん…好きだなぁ」 「っ」 刹那、息を止めた大也にゆるりと頬が緩んだ。珍しくたじろいだ様子を可愛いだなって考えながら見やる。目元を微かに赤らめさせた彼は、自身の頬に触れる手を取り、その薬指に口付けた。 「…無事受験が終わったら、ペアリング買いに行くぞ」 キョトンとしたのは一瞬だけで、恭徳はすぐに嬉しげに笑った。 「うん、楽しみにしとく」 これはもう絶対合格しなくては。そう決意した。 ←|戻|→ . |