B唇に指を這わせ1 恭徳は勉強が手につかず、物思いに耽っていた。大也を意識し始めたその日から更に一ヶ月半後のこと。 その日、学校に登校するとクラスメイトのとある女子が泣き崩れていた。友達に慰められている彼女に一体何があったのかと、自分より先に来ていた男子に尋ねた。 「ああ。告ってフられたんだってさ」 「…そっか、サンキュ」 「おう」 礼を述べるとその男子はニカリと笑って見せ、友人の輪に入っていった。恭徳はというと、自分の席に座って泣いている女子とそれを囲む数人を眺めていた。 (失恋、か) そうして思い浮かんだのは、やはりというかなんというか、大也だった。恭徳はもう既に自分の気持ちがどこにむいているのかを知っていた。 だが本人には伝えないと意思を固めていた。男に告白されても気持ち悪いだけだろうと、元々ノーマルである恭徳は心の蓋をキツく閉めたのだった。 (…羨ましい) ぼんやりと恭徳は思った。告白する度胸すら無い自分にとって、フられたと言って涙を流す彼女は輝いて見えた。 だけれど首を振って思考を散らせる。羨ましいなどと言うのは彼女に失礼だ。ただ自分の力量不足を男同士という関係に理由をつけて逃げているだけだ。 ←|戻|→ . |