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 私立男子校3年、梶恭徳(かじやすのり)。受験という呪いがついてまわるのは誰しもが一度は通る道なのだろう。だがそれを苦に思うのもまた誰しもが一度は通る道である。
 恭徳は小さく息を零した。彼は今、恋人の家に来ている。それなのに目線の先は参考書。ずらりと並ぶアルファベットの羅列にムムムと眉を寄せて、とうとうぶち切れた。


「俺は日本人だー!!」


 分厚い参考書を持ち上げて投げ捨てた。あくまでも丁寧に。高校生といえども力は成人並みなのだ。体格は並みよりはいささか小さいのだが、今はそれは置いておこう。力任せに投げてしまえば何かしらが壊れてしまうだろう。
 それに高い高い参考書を無残な姿にしてしまうにはもう数ヶ月早いし、結局自分に対価が返ってくるのだから破りたい衝動は理性で押し留めた。…とは言っても投げたのには変わりないのだが。


「恭徳」
「…ふんっ」


 苦笑してたしなめた恋人、柏木大也(かしわぎひろや)に恭徳は不満げに鼻を鳴らして投げ捨てた参考書を拾う。折れ曲がったページを丁寧に伸ばす彼に大也は小さく笑った。



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