人に恋した人食い鬼10 「紅緋、可愛い」 「ッ」 恍惚と、それでいてギラギラと欲の宿った瞳に喉を鳴らした。どうにかして逃れる術は無いものか。繋がりたくない訳ではないが、性急過ぎる。 「病み上がりだから、今日は止めて欲しいのだが…」 「それで僕が止めるとでも?」 目を細めて萌葱は笑った。完全に捕食者だ。唸る私に、萌葱は眉を下げた。 「…嫌かい?」 その聞き方は狡くないだろうか。どうやら観念するしかないようだ。 「…嫌では、ない」 ふいっと目線を逸らしながら言えば、萌葱は嬉しそうに笑う。その顔も好きだと思ってしまった私は相当惚れ込んでいるらしい。惚れた弱みとはこういう事か。何だか負けた気がする。 「なら、良いだろう?」 余裕のあるその態度が気に食わない。どうにかしてその顔を崩せないだろうか。 少しの逡巡の後、私は思い切って萌葱の首に噛み付いた。 遠慮無く噛んだものだから、綺麗に痕が残った。痛みからか、体をビクリと震わせた萌葱に満足する。 「―――煽ったのは、君だからね?」 自棄に色気のある声音に、硬直した。…その後の事は、聞かないで欲しい。 end ←|戻|→ . |