人に恋した人食い鬼6 「死んでない。死なないで。僕を残して行かないでくれ」 悲痛な声に言葉に詰まる。残される側の気持ちを考えていなかった。もし、もしも、男が逝ってしまったのなら、私は狂ってしまうだろう。 「…悪かった」 「本当にね。お願いだから、こんな無茶な事、二度としないで」 「約束しよう」 深く頷いた私に漸く落ち着いたのか、腕の力を弱めた。それでも抱かれたままだ。 そこで気付く。男から死期の匂いがしない。成功、したのか。いや、したのだろう。そして私も生きている。なんと都合の良い事だ。こんなに、嬉しい事は無い。 「体調はどうだ?」 分かってはいるが、一応念の為尋ねると苦笑を寄越された。 「それは僕の台詞なんだけどな。うん、体が軽くなって、どうやら病も治ったらしい」 「…そうか」 自然と頬が綻ぶ。言い表せぬ歓喜がじわりじわりと迫り上がってくる。 「本当に、夢ではないのだな」 「現実だよ。病気は治って、君も生きている。目が醒めて良かった」 男の目に安堵の色が浮かぶ。そういえば、体に違和感を感じる。魔力が、感じられない…?まさか。 恐る恐る額に手を持っていく。そこに、角は存在しない。爪も黒くなく、人間と同じ肌色をしていた。"人間と同じ"? ←|戻|→ . |