人に恋した人食い鬼5 | ナノ

人に恋した人食い鬼5












 強制的に意識が浮上する。寝起き独特のぼんやりとした視界に映るのは見知らぬ天井。
 一体、此処(ここ)は何処(どこ)だろう。私は…そうだ。男に生を分かち、死んだ。なら死後の世界だろうか?


「………?」


 右手がどうしてか温かい気がして、首を倒す。腕の先を辿れば、手が繋がれていた。誰、と思う暇もなく息を呑む。そこには眠っている愛しい男が居た。


「―――…ん…」


 驚きに体を震わせた振動が伝わったのか、男が身動(みじろ)ぎしてゆっくりと目を開けた。焦点のいまいち合っていない目が私を捉える。と同時にこれ以上無い程見開かれた。


「………ッ」
「ど、どうした?」


 瞬時にガバッと抱き締められる。強い抱擁に動揺を隠しきれない。
 一体、どういう事だろうか。これは夢?いや、死んだ筈なのに夢も何も、無いだろう。
 だがこの温もりは確かに存在するのだ。混乱する私に、男は囁いた。


「…生きていて、良かった…」
「…私は死んだのではないのか」


 瞠目する私を更に強く引き寄せる。今までにない密着度に慌てる。こんなに近くに体温を感じた事など無い。



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