人に恋した人食い鬼3 だが私には出来ない。この男を好いてしまったのだ。 我ながら愚かだと思う。だけれども気持ちを止められなかった。抑える事が出来なかった。 不運な青年に同情したのだろうか。それとも、死を淡々と受け入れている故に、人喰い鬼の私に臆さないからだろうか。 「何故、そのような事を軽々と言えるのだ」 「軽々、か」 細い息が吐き出された。吐息に近い声で男は零した。 「別に、ただ、死を待つだけなら、食べられた方が良いかと思ってね」 というのは建前で、と小さく微笑んだ。私には泣いているように見えた。 「君の血肉になれば、何かが残るかな、と。君と一つになったなら、たとえ君に忘れられても僕の存在が刻まれるんじゃないかと思って。馬鹿だと笑っても良い。だけど僕は、君の事が好きなんだ」 思わず振り向くと、真剣な目に射抜かれた。 ―――まさか。そんな都合の良い。 唖然としていると、するりと頬に手が添えられて、そのまま唇を掠め盗られた。更に呆然とする私に、男は柔らかく目を細める。 まるで「愛している」と言われているようで、知らずの内に頬を熱くした。 「だから、僕を食べて」 穏やかに告げられた内容に、一瞬にして血の気が引く。 そんな事、出来る筈がない。私だって、好いているのだ。 嗚呼、どうして人間とはこんなにも脆いのだろう。男を助ける術は無いだろうか。 ←|戻|→ . |