13
「新は、おれに何か用?」
「…ああ、」
忘れるところだったと新は苦笑する。宮緒に呼ばれる自分の名前が恐ろしく甘美に聞こえて仕方が無い。うっとりと脳が蕩ける初めての感覚にまた酔いしれた。
「昼は弁当か?」
気を引き締め、新は問う。
「うん」
「なら一緒に食べないか?」
「いいよ」
宮緒はあっさりと承諾して頷く。新は宮緒の黒髪にポスリと手を乗せた。指どおりの良いその髪に自然と笑みが浮かぶ。
「昼に迎えに来る」
「…うん」
撫でられるのを甘受して気持ちよさそうに宮緒は目を細めた。2回ほど往復してから離れていく大きな手を名残惜しげに見送る。新が去った後も、クラスの中はふわふわとした雰囲気が漂っていた。呆然とクラスメイトは閉められたドアを見つめていた。
◇◇◇
「宮緒」
低く甘い声が昼休みになった教室に響き渡った。いつもならざわめいているはずなのにシンと静まり返っている。
「ん、」
宮緒は片手に鞄を持って、とてとて、と新の元へと歩み寄る。新は自然な動作で宮緒の鞄を持った。それをキョトンとして見上げる。
「行くぞ」
気にせずに歩き出した新に、宮緒は慌てて追った。新は小柄な宮緒に合わせるように歩く速さを落とす。廊下で擦れ違う不良たちにギョっとされながらも無事に目的地へと辿り着いた。
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