12



「新谷、宮緒」


 桜色の唇から発せられた声に思わず新は酔いしれる。既に知っていた少年の名前を、本人から聞きたいという新の我儘ではあるが、しかし新は満足していた。


(毒のようだ)


 漠然とした呟きを心中に留める。宮緒の全てが、存在が毒のようだと新は思う。ただ短く発せられた声音さえ、甘く侵食してくるのだ。


「宮緒、と呼んでもいいか?」
「うん」


 コクリ、と首を上下に動かせた宮緒にホッと息を吐く。


「おれは何て呼ぶ?」


 舌足らずな様子で「おれ」と言う宮緒に、新は知らずの内に頬を緩めていた。


「新でいい」
「あらた?」
「ああ」
「あらた…うん、新」


 何度も新の名前を呼び、口に馴染んだのを確認して宮緒は頷いた。

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