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「迷った。俺の気持ちで椿が壊れてしまうんじゃないか、って」
「そんなことは!」
「でもな、椿」


 ばっと顔を上げて抗議しようとしたけれど、見上げた先輩の穏やかな顔に黙らされた。そんな僕を見てクスリと笑った先輩は続けた。


「好きになってしまったものは仕方が無いんだ。止まらないんだ。抑えたら抑えただけ気持ちが溢れる。椿のためとか、そうやって抑えてみるけど結局椿のことを考えてるわけで、好きだって、愛しいって気持ちは止まらなかった」


 先輩の言葉に思わず泣きそうになった。痛いほどその気持ちは分かるから。だって僕も、僕も。


「先輩…」


 僕だって悩んだんだ。悩んで逃げてしまった。そんな僕に告げる権利は無いのかもしれないけれど。でも、溢れてしまうんだ。零れ落ちてしまう。


「僕のせいで壊れてしまった人がいて。僕があの時声をかけてさえいれば壊れなかったかもしれなくて。でも僕を責めてくれる人さえいなくて!」
「僕は、僕はこの世からいなくなってしまいたくなった。大切な人が壊れてしまうのなら大切な人はいらないって、そう思ってっ」


 叫ぶような僕の声を黙って聞いてくれているわたり先輩を見上げた。

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