「僕なんかのために…」
声に出ていたらしく、はっとして口を押さえる。わたり先輩に聞こえていないことを願ったが、そんなのこの距離で聞こえないわけもなくって。静かな声音で、先輩は言った。
「自分を卑下するな、椿」
「でも」
「お前は視野が狭すぎる。何があったのか、無理に聞きはしない。だけどな」
そこで一旦先輩は言葉を区切った。
「心配しているんだ。それこそお前の友人も…俺も」
「っ」
真剣な眼差しに、思わず喉を鳴らす。それほどに迫力があった。
「一人になんてさせやしない。俺が、させない」
これ以上聞いては駄目だ。そう警報は鳴るのに。どこか遠くで鳴っているようなそんな気がした。先輩の深い色の瞳から、視線を外せなくて。外すことを許されないような強さがあって。…逸らせなかった。
「―――俺は、お前が…白露椿のことが好きだから」
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