「―――椿」
鼓膜が、震える。それこそ今僕が求めたその人の低い声が耳朶をくすぐる。
「…幻?」
そう思ってしまったのは仕方が無いと思う。だって、だってさ。そんな、こんなタイミングで此処に来るなんて思わないじゃないか。ああ、でも、幻でもいい。たとえ幻でも、今だけはどうか。
―――泣かせてください。
「っ」
俯くと涙がポタリと落ち、コンクリートに染み込んで消えた。次々に落ちる雫を、コンクリートは律儀に受け取る。
「椿」
ふわりと、抱きとめられる。その優しくて強い力に、余計に涙は溢れ出した。
「泣きたいときに泣け」
ポンポン、と規則正しく背中をたたいてくれる。夢なら醒めないで。そう、願わずにはいられなかった。
「…っぅわぁぁあああ!!!」
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