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「―――渡 劉牙さん、此処にいますか!?」


 切れた息を整えながら店内を見回す。


「俺に何か用か」


 低い声が発せられた方に向くと、思わず息を呑んだ。秀麗な顔立ちと鋭く細められた目に身体を揺らす。引きそうになる身体を叱咤して正面から向かい合う。


「椿のこと、知っていますよね」


 そう言った俺の言葉に、目の前の男はゆっくりと身体をこっちに向けた。


「何があった」
「こっちが聞きたいです」


 足が震えてくるのを無視して睨みつける。


「どういうことだ」


 静かに聞いてくる彼に、どうしても怒りがこみ上げる。けど、今は椿が先だ。


「椿が家に帰ってこないんです。教室にも来なかったし」
「家に?」
「俺、一日中会ってなくて。心当たりが貴方しかないんです、何か分かりませんか?」


 冷静に、と自分に言い聞かせる。


「………」


 彼はおもむろに立ち上がった。それを見て、ほっと息を吐く。彼ならどうにかしてくれる。彼の後姿を目に焼き付けたあと、限界だった足が崩れ落ちた。情けない。だが、俺が出来ることはした。


「…心を許したのは、あの人だけだから」


きっと、なんとかしてくれる。そう信じて、胸の前で手を組み祈った。


―――どうか

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