真 side
「…椿が帰ってこない」
サボるとしても必ず一度は教室に来るはずなのに、まだ一度も見ていない。それに来た痕跡も見当たらなかった。あっという間に放課後になって、不安から椿のマンションまで行った。預かっているスペアキーで部屋に入るが、椿の姿はどこにも見当たらなかった。
「23時」
外を見てもただ闇が広がるだけ。
―――いてもたってもいられない
俺は鍵を手に取って外に出た。
「さむっ」
冷えた空気が肌を撫でる。こんな中で椿はどこに…。
「くそっ」
心当たりがない。椿のことを知らなさすぎた自分に下唇を噛む。どこを探せば?
「ひとつ、」
ひとつしか、ない。俺は「彼」がよく居るというバーへと向かった。風を切って走る。脳裏に浮かぶのは椿の静かな寝顔。心の奥の闇に何が潜んでいるのだろうか。そんなことを思いながらひたすら走る。この時ばかりは自分の運動神経の良さに感謝した。
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