勝 side
「………」
また、何も言えなかった。出しっ放しになった椅子に座ればまだ少し温かかった。それを感じながら椿ちゃんの最後に見た後ろ姿を思い出す。
「椿ちゃんのせいじゃないのに」
彼のせいではない。それは本当に心から思っていること。彼が悪いわけでもない。桜が悪いわけでもない。悪いのは彼の親なのだから。
気に病む必要は何も無いのに、自分を追い詰めてしまうのは椿ちゃんが優しすぎるから。他人を尊重するのは彼の良い所だけれど。
「短所でも、あるから」
眠り続ける恋人の手を取る。
「いつか、全てを話せる相手が出来るといいんだけど」
ねぇ、桜。何が椿ちゃんを苦しめているのかな。いつか、心から笑える相手に巡り会えることを願うよ。
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